ランニングにおけるトレーニング理論について学んでいく中で大変参考になっているのが、アメリカの中長距離のランニング指導者であるジャック・ダニエルズ博士によるトレーニング理論。そのトレーニング理論について学ぶことができるのが、彼の著書である「ダニエルズ・ランニング・フォーミュラ 第3版」です。
様々なランニング雑誌やランニング本を読んでいますが、このダニエルズ式トレーニング理論が根底に書かれているものが多く、トレーニングの基礎本といって良いものだと感じています。
私のようなごく一般的な市民ランナーには、コーチなどの指導者はいません。
この理論を知るまでは、自己流でトレーニングメニューを組み立てて走ったり、Twitterなどで見かけるトレーニング内容を真似してみたりと、とりあえず頑張れば速くなれる的なトレーニングを繰り返していましたので、成長速度も遅く、また怪我もしやすいトレーニング内容になってしまっていました。
このダニエルズ・ランニング・フォーミュラという本があれば、身近に指導者がいない人でも一流の指導者の考え方をベースとしたトレーニングメニューを組むことが可能であるとともに、ランナーのペースに応じたトレーニングにおける目標速度やメニューも分類して記載されているので、初級者から上級者までどんなランナーにも役に立つ素晴らしい本です。
目次
ダニエルズ式トレーニングの特徴
ダニエルズのトレーニング方法について特徴となる要素を纏めると次の3つです。
- トレーニングの種類と強度
ランナーが取り組むべき様々なトレーニングタイプとそのトレーニングがどのような効果を及ぼすかについて - トレーニング強度の設定(VDOT)
それぞれのランナーにおいての適切なトレーニング強度を設定するVDOTについて - トレーニングフェーズ(シーズン)
シーズンを4つに分けたシーズンごとのトレーニングの考え方について
それぞれについて概要を紹介していきます。
トレーニングの種類と強度
ランナーが取り組むべきトレーニングタイプである、E、M、T、I、Rという5つの異なるタイプ(強度)について説明します。E、M、T、I、Rの文字はそれぞれ強度を示しており、トレーニングタイプの略称でもあり以下のように呼ばれています。
タイプ | 略称 | 呼び名 |
E(Easy) | Eペース | イージーランニング |
M(Marathon) | Mペース | マラソンペースランニング |
T(Threshold) | Tペース | 閾値(いきち)ランニング、閾値走 |
I(Interval) | Iペース | インターバルトレーニング、インターバル走 |
R(Repetition) | Rペース | レペティショントレーニング、レペ |
得られる効果と各強度の指数・練習上限
それぞれの強度について、どのような効果が得られるかは以下となります。
タイプ | 効果 | 強度 | 練習上限 |
E | 心臓の強化と毛細血管新生の促進 | %VO2maxの59〜74% %HRmaxの65〜78% |
週間走行距離の25〜30% 週間走行距離の25%か150分間の短い方(それ以上) |
M | マラソンペースに慣れる | %VO2maxの75〜84% %HRmaxの80~89% |
週間走行距離の15〜20% |
T | 持久力の強化 | %VO2maxの83〜88% %HRmaxの88〜90% |
週間走行距離の10% |
I | 有酸素性作業能力の向上 | %VO2maxの95〜100% %HRmaxの97.5~100% |
週に10kmか週間走行距離の8%のどちらか短い方 |
R | 無酸素性作業能力の向上、スピードの強化 | %VO2maxの105〜120% %HRmaxの100% |
週に8kmか週間走行距離の5%のどちらか短い方 |
それぞれのトレーニングにおける強度と効果は全て異なり、マラソンにおけるトレーニングでは5つの異なる効果を組み合わせることで成長していくものとなります。ただジョグだけ続けていく、闇雲にスピード練習を続けていくだけでは能力の向上が期待できなくなる可能性もあるということです。
トレーニングの強度については%VO2maxと%HRmax(心拍数)で記載していますが、私の場合は%HRmaxで見ています。
それぞれのトレーニングペースの概要
Eペース(イージーランニング)
Eランニングの効果は、怪我に対する耐性をしっかり作り上げること、心筋を発達させる為も効果的です。また毛細血管新生(活動筋に酸素を運搬する微細な血管が増えること)が促進されることも特徴として挙げられます。
Eは(Easy)の頭文字であることから「楽に走れるペース」、という意味になりますが、緩いだらだらとしたジョグペースではなく、ランナー個々における一定の速度である程度しっかり走った上で楽と感じるペースです。普段のジョグはこのスピードで走ることが推奨されており、ウォーミングアップやクールダウン、リカバリージョグなどもこのペースで行います。
なお、私の現在の走力でのEペースは4:52〜5:29/kmとなります。
Eペースランニングの詳細は以下に記載していますので合わせてご覧ください。
【イージーランニング(Eランニング)】ダニエルズ式ランニングトレーニング
Mペース(マラソンペースランニング)
M(マラソン)ペースランニングはその名の通りフルマラソンでのレースペースで走るトレーニングの事です。
Mペースランニングの目的は、
- 実際のレースペースに慣れること
- マラソンペースでの給水に慣れること
とされており、ダニエルズの理論ではMペースランニングの主な効果は設定したペースで走る自信を高めること(メンタル的なもの)で生理学的な効果はEランニングと全く変わらないとされています。
※私の現在の走力でのMペースは4:27/kmとなります。
【マラソンペースランニング(Mペースランニング)】ダニエルズ式ランニングトレーニング
Tペース(閾値ランニング)
TはThresholdの頭文字です。日本語では閾値(読み方は「いきち」)で、閾値走、Tペースランニング、Tペース走といった呼び方をされます。Tペースランニングは、ランニング・フォーミュラによると「快適なきつさ」と表現されており、「きつい」ペースではありません。
比較的早く走っているが、練習なら20-30分維持できるペース。レースなら休養を取ってピーキングすれば60分は維持できるというペースがTペースの強度となります。
Tペースランニングの目的は、シンプルに言えば持久力を向上させるために行うもので、血中の乳酸を除去して十分処理できる濃度に抑える能力を高める為に行います。わかりやすく言えば、ある程度の時間、少しだけ速めのペースで持ちこたえることを体に覚えさせる、一定ペースを維持できる時間を伸ばす目的。Tペースランニングを行うことで、長い時間、そのペースを維持できる力が向上することになります。
強度はVO2maxの86~88%、HRmaxの88~90%が目安となります。
※私の現在の走力でのTペースは4:11/kmとなります。
【Tペースランニング(閾値ランニング)】ダニエルズ式ランニングトレーニング
Iペース(インターバルトレーニング)
IはIntervalの頭文字です。スピード練習として広く知られているインターバル走ですが、定義が人によって異なるため、ダニエルズにおけるIトレーニングの目的は、「有酸素能力(VO2max)の向上」と定義することが一番理にかなうと定義しています。
休息時間は疾走時間よりもやや短いくらいが適正とされ、それぞれの設定されたペースより速く走りすぎて後半失速するよりも設定されたペースで最後まで走りきることが重要とされています。
強度はVO2maxの95~100%、HRmaxの97.5~100%、私の現在の走力だと、400mのIペースで92秒・1000mで3:51/kmで走ります。
Rペース(レペティショントレーニング)
RはRepetitionの頭文字です。(通称:レペと呼ばれているトレーニング)
Rペースでのトレーニングの主な目的は、無酸素性作業能、スピード、ランニングの経済性を高めることです。
走る→リカバリー→走る→リカバリーと繰り返すことからインターバル走と似たトレーニングとなりますが、インターバル走とRランニングでの大きな違いは、Rランニングでは十分に身体を回復させて正しいフォームで早く走ることが重要で、もがき苦しんでフォームを崩して走るトレーニングとは異なります。
Rペースで走る疾走区間は毎回2分を超えないというルールがあり、ほとんどのランナーの疾走距離は200m~600mになるはずです。休息時間は疾走時間の2~3倍と心肺が回復するまで十分に取ります。
トレーニング強度の設定(VDOT)
ダニエルズ式トレーニングで最も重要といっていい数字がVDOTです。それぞれの実力の異なるランナーが自身に合ったVDOTを用いることで最適な強度の練習が可能となり、トレーニングの効果も高いものとなります。
上で記載したトレーニングメニューの中で、私自身のペースを記載いたしましたが、そのペースこそがVDOT一覧表から抽出したペースであり、このペースを元にトレーニングを行なっています。
自分自身のVDOTの数値がどれくらいかを確認するには下記をご覧ください。
VDOT値とVDOT値から見た適正なトレーニング強度について
また、こちらのリンク先ではVDOT計算機を用いることでVDOTが確認ができ、1,500m、3,000m、5,000、ハーフ走、マラソンなど一定距離でのレース結果から、自分のVDOT(=走力)を知ることができます。
なお、VDOTの数値は目標とするペースではなく、あくまでも現時点での自身の走力から算出します。
トレーニングフェーズ(シーズン)
ダニエルズ式トレーニングでは、大会に向けて4つの期間(フェーズ)を設けてメニューを組みます。5つのトレーニング強度の組み合わせが4つのフェーズで変わります。それが次の表です。
フェーズ | 練習構成 | 練習の目的 |
フェーズⅠトレーニング | E | 基礎の構築と怪我の予防を主眼とするフェーズ |
フェーズⅡトレーニング | E、R | スピードへの適応フェーズ |
フェーズⅢトレーニング | E、I、R | 有酸素性システムへの運動刺激で4つの刺激のうち最もハードなフェーズ |
フェーズⅣトレーニング | E 、 T、 I 、R | 持久力・閾値領域の向上、パフォーマンスをピークに持っていくフェーズ |
このトレーニングフェーズを読んで個人的に驚いたのが、Rペースでのトレーニングをどこのフェーズでも取り入れているということ。スピードを磨くトレーニングは、結果を出す為にはしっかりと行なっていかないとダメということですね。
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